資料問題から日本史を考える 共通テストの分析をふまえて
駿台の鈴木和裕先生の講座に参加してきました。その内容のまとめ。
1.センター試験と共通テストの違い
①共通テストは知らないことを前提に考えさせる
②資料問題が増えるとともに、資料から読み取れるものや、史料のそのものの読解にまで踏み込まなければならない。
③今までは設問を見なくても解けたが、共通テストは文章が正しい問題が多いため、設問の要求を正しく理解することが要求される。
④内容判断よりも時期判断が重視される
一言でいうと、「論述問題の発想に近くなる」
歴史の「本質」が分かっていれば、共通テストになったからといって何も変わらないが、中堅クラスの生徒(そういうことが理解できず、暗記することにこだわる層)には、コツがいる。
2.共通テストの分析
①時代の区分(古代、中世など)を意識した問いが多い
②一つのテーマですべてが構成されている。
③穴埋めが語句ではなくて文章になった。
3.問題の作り方
正しいものを4つは作りずらいので、2つずつ選ばせる形式がよい。
①Xについてaとbから、Yについてcとdから選ぶような形式がつくりやすい。
②史料を出して、史料読解と関連事項をそれぞれ1つずつ選ばせる問題なんかは作りやすい。
こうした問題の素材は、一人で探すには無理があるし、仮にあったとしても、作成者の史料解釈が大きく反映されるため、問題として成立しづらい。
だからこそ、「国公立二次試験を素材にするとよい」
4.面白い国公立二次試験
特に名古屋大学の問題がおすすめ。
(例)2008年
問1 稲荷山古墳から出土された金石文から、『日本書紀』にみえる「天皇」について、どのようなことが確かめられ、どのようなことは修正を要することが分かるか述べよ。
確かめられること・・・史料中のワカタケルが日本書紀の雄略天皇と一致し、その実在が確認できること。
修正を要すること・・・当時は天皇ではなく、大王号が使用されていたこと
問2 日本書紀の改新の詔に関する記事のうち、地方行政機構の名称に関する信頼性について、700年の「評」に関する木簡、702年の「郡」に関する木簡、養老令(大宝令)の郡司に関する記述を基に答えなさい。
一次資料である木簡などから大宝令施行以前は行政単位として評が使用され、郡や郡司の名称は大宝令により成立したことが分かる。ゆえに『日本書紀』にみられる郡司の記述は信頼性がない。
2018年①
「鉄炮記」の現代語訳から、大船が中国船からポルトガル船かを考えさせる問題。
=史実は中国船なのだが、鉄炮記の史料はどうみてもポルトガル船の根拠となる記述が多い。
=ポルトガル船が来航していたという根拠となった史料。ただし、これは慶長11年(1606年)の資料なので、二次資料で信憑性が低い。
=でも、根拠をふまえて叙述せよ、なので、おそらくポルトガル船を根拠として書くのが妥当という問題。
=史実という常識にとらわれずに書く力が求められる。
2018年②
「東京パック」に載っている重税に苦しむ国民に関する風刺画を題材にした問題。
問い この図は戦争に協力した人々や団体を風刺した絵だが、その風刺の内容を図や活字にした文章から読み取り述べよ。
ここでのポイントは、重税に苦しむ国民もまた、戦争に協力したということであり、戦争によって、元老や御用商人は利益を得て、村長や地方官、代議士などは国民を顧みていないため、協力した国民だけがバカをみていることを風刺している。
=ここから、税を払っているからには政治参加させろ、政治要求をさせろ、という、暴動(大正政変など)やデモクラシーへと発展していく。この風刺画を通して、なぜデモクラシーが発展していったのかを読み取ることが出来そう。(かつて大阪大学が2017年に論述でこの辺りを問うている)
2018年③
若槻礼次郎の鉄道国有化批判に関する史料から、立憲政友会の国内政策の特徴について説明させる問題
政府による鉄道敷設などの公共事業を媒介として、地方への利益誘導をおこなって有力者の支持を得ていた
=この視点は、後の原敬内閣における我田引鉄が最たる例である。
=さらにいえば、1970年代の田中角栄による列島改造論もこうした発想に基づく。
=もっといえば、なぜか存在する岐阜羽島、上毛高原などの乗客数の少ない駅
=さらにいうと、リニア新幹線はなぜ路線が曲がらずにまっすぐなのか
(池上彰の番組でやっていたけど、これはJR東海が政府の支援を得ずに作ろうと計画したためである。このように公共事業、とりわけ鉄道には地方への利益誘導が見え隠れする)
なかなか面白いネタをゲットしました。来年度の授業に生かそうと思います。
名古屋大学おすすめ! (今年は鈴木先生いわく失敗問題だったらしい。ちなみに今年はすべての問題が「王政復古の大号令」でした。)