書評 延近充『入試問題の作り方』
*[書評] 延近充『入試問題の作り方』
本書では、慶應大学経済学部の入試問題の制作に長らく携わってきた著者が、自らの入試作成の経験に基づいて、大学入試共通テストの世界史と日本史の問題を分析、批判し、これから始まる指導要領で掲げられている学力観、とりわけ「思考力・判断力・表現力」を評価するための入試問題とはどのようなものか、について述べられている。
著者の問題意識としては、
歴史科目の学習とは「細かい史実の暗記」であるという意識を変え、現代社会が抱える諸問題の原因や原点がどこにあり、問題の解決のためにどのような方向性を展望すべきなのか、といったことを考えるために歴史を学ぶ意味があるという意識に変わるとすれば、この改革は重要な意味をもつであろう。
しかし、大学入試共通テストが、そうした問題になりきれていないことを指摘している。自分なりに本書をまとめると、その問題点は、以下のように要約される。
① 問題文章が膨大である
② アクティブラーニングの場面設定テーマが不適切
③ アクティブラーニングの場面設定がなされているものの、実質的には暗記を問う問題が多い
④ 問いの中で生徒が立てている仮説が不適切なものが多い
⑤ 思考力のある受験生ほど戸惑う問題が多い
⑥ 歴史知識のある受験生が×になり、表面的な国語力のある人が正解になっている問題がある
⑦ ○○主義を問う問題も散見され、結局無意味な暗記を強要している問題も多い
結果的に、暗記を問う問題が増えており、従来型へ逆戻りしていることが指摘されている。
本書は、単なる批判だけでなく、著者が実際に問題作成にあたるためのノウハウも第1章で述べられたうえで批判されており、特に歴史系の先生で、思考力型の問題を作ろうと考えている先生にはヒントを与えている部分も多い。
特に、慶應の問題では、問題作成にあたって、記号問題は誤文を選ばせる問題に統一しており、誤文の作り方も示されている。この辺りは非常に参考になる。
自分自身、来年の共通テストで満点をとれる自信はあまりない。それは、これまでのセンター試験とは異なり、日本史以外の要素で解答を導き出そうとしている問題が散見されるからだ。具体的には、史料に見られる古文のような「語彙」を問う問題、単純な国語的な読解の問題などである。
また、無理に図表を入れ、図表からそのまま読み取らせようとする問題もある。こうした問題が、共通テストでどのように出題されるか。その辺りを分析していきたいと思う。
とはいえ、2018の試行調査から分かることは、「思考力」を謳いながら、結果的には「知識」を問うているか、別な分野(特に古典や現代文)の能力を問うている問題に二分されてしまっている感じがする。であるならば、センター試験の方が良問ぞろいだと感じる。
ゆえに、生徒には、とにかくセンター試験の過去問をやりなさい、ということと、問題文から根拠(ヒント)を探すことを徹底させている。