青い森のねぷたいブログ

青い森です。東京の某所で教職についています。教職に関することを主につぶやいていきます。

本紹介

 山口意友さんの『反「道徳」教育論』を読みました。といっても最初の方と最後の方だけですが。


 自分なりに端的に要約すると、現在のキレイゴト道徳や法律などの規範では太刀打ちできない言葉があります。それはよく中高生が言い訳として使う「他人に迷惑をかけてないんだからいいじゃん」っていう言葉です。確かに規範というのは究極のところ個人で昇華されれば必要がありません。こういう言葉は道徳を破壊するのです。


 しかし著者はここで法律や道徳でない第三の概念を指摘してきます。それが「美学」という言葉です。まあ、より教育的にいうならば、本来道徳は「〜べき」とか「〜しなさい」、「〜しなければならない」を直接的、あるいは間接的に訴えるような教材を持ってくる可能性が極めて高い。「お年寄りには席を譲ろう」だとか「すすんでボランティアをしよう」だとかね。でも、自分みたいに従順だったら素直に従うけど、ひねくれ者は「ああ、またきれいごとか」と言って聞き入れない可能性がある。


 そこで彼は道徳においていろんな見方を示し、子供に本音を出させることを目指していく。例えば自殺ひとつをとっても、被害者・加害者・あるいは自殺した子の親・先生・周りの保護者などなど。それぞれによって物事のとらえ方は全く違うわけです。そして、いろんな見方を示し、いろんな見方を感じる中で、子供が自分で「ああ、自分だったらこうするな」とか「こういう考え方もあるんだ、じゃあ、こっちの方がいいな」などと自分で規範意識を作っていく、これが著者のいう「美学」とか「自分らしさ」だと思います。しかもその「美学」は真に自分に内面化されたものであるべきだと著者は述べています。


 そのため本書ではある特定の事象、例えば出産に立ち会うことは感動的?とかボランティア社会はいいことなの?などといったそれこそ道徳からしたら「当たり前」のことに敢えて疑問を投げかけています。そういう意味では道徳というよりは、「よのなか科」「市民科」にニュアンスが近いような気がします。



 まあ、新書なので結構過激にものを言っています。ただこれを鵜呑みにしては大部分の生徒がひねくれてしまう気が自分はするので兼ね合いでやっていかなければいけないような気がします。あと、著者は生まれた境遇からなのか、おそらく「美学」とか「奉仕」とかそういう古風な思想が極めて好きな印象を受けました。そういう意味では、反「道徳」とは銘打っているけど、思想的にはお役所に従順だから結局「道徳」っぽい考えだなと思いましたけどね。まあ、専門が道徳の方なのでそれはそれでいいのでしょうけど。

反「道徳」教育論 (PHP新書)

反「道徳」教育論 (PHP新書)