青い森のねぷたいブログ

青い森です。東京の某所で教職についています。教職に関することを主につぶやいていきます。

 角田将士 NG分析から導く社会科授業の新公式

 

 社会科授業とはどのような授業か。かつて棚橋健治氏は、「社会科の授業診断-よい授業に潜む危うさ研究」という本を出し、一般的に「よい」とされる社会科授業の類型化を試みている。

 こうした社会科授業の類型化は、特に広島大学系の社会科教育学の先生が行う社会科教育法では至極当たり前のものであるが、こうした「社会科にはいろいろな授業方法があり、それぞれに意義と課題が存在する」という大学の教育法のテキストのような内容で、かつ現場の教員にも分かりやすく書かれているものは、近年なかなか出版されていなかった。

 しかしながら、高等学校も含めて、コンピテンシー重視の学習指導要領へ転換した現在、ある特定のやり方にだけ凝り固まって社会科の授業をしていることが、非常に危うくなってきており、生徒の学習文脈や学校の文脈に合わせ、カリキュラムレベルで実践をプロデュース(ゲートキーピング)できる能力が、社会科の教師には求められている。

 

 

 そうした中で出版されたのが今回の本。結論から言えば、少なくとも中学の先生、さらに言えば、歴史総合や地理総合など、高等学校の必修科目に関わる先生方にはぜひとも読んでほしい一冊である。

 この本は一言で言えば、社会科に見られるそれぞれの授業の特性を解明し、特にどんな点がNGであるか(課題であるか)を理解し、それを改善するにはどうしたらよいか、の処方箋が示されている。

 

 特に著者の場合は、絶対にやってはいけない授業として

  1.  価値注入的な授業
  2.  活動中心的な授業

 

 を挙げている。一般的に言われる「知識伝達」の授業は、絶対にやってはいけない授業に含まれていないことが興味深い。その上で授業構成の4タイプとして

 

  1.  知識伝達に重きを置いた授業 (内容重視型)
  2.  事象の意味や意義に迫る授業 (地理や歴史の○○とは何か、型の授業)
  3.  概念や理論の習得を目指す授業 (いわゆる概念探求型の授業)
  4.  価値判断を求める授業    (公民に見られる価値判断型の授業)

 

 を取り上げている。

 ここで踏まえなければならないのが、著者の考え方が森分孝治氏の論考に多く依っていることである。著書のp.5には森分氏が2001年に発表した社会科における学力像の図が示され、この学力像に基づいて授業分析がなされている。そのため、科学的でないと考えられる「思い」と「願い」の授業や、とにかく活動させることを重視する授業は、絶対にダメという判断となり、とにかく内容を詰め込む授業の方が、(課題はあるが)「まだマシ」という評価になっている。

 さらにいえば、4の価値判断を求める授業についても、論者によっては4の中で様々な類型や考え方があるはずだが、著者の場合は価値判断型の授業とひとくくりにして説明している。これも森分孝治氏の論考に依るものと考えられる。

 

 そのため、求められる授業のアップデートの方法についても「知識の累積的成長」と「知識の変革的成長」の比較(p.170-171)、「知識の変革的成長」の図(p.172)が示されている*1。個人的に今回の学習指導要領は、科学的な探求の視点について森分氏の考え方が多分に援用されているので、この本は、そうした考えをかみ砕いて紹介しているという点で、非常に有用性の高い本であると考える。

 

 

 また、今回とても興味深かったのが、最後の章で著者が「学ぶ意義」についてもはまりやすいNGポイントを指摘していることである。

 

こうした視点から、社会科授業のアップデートに向けて、ハマりやすいNGポイントとして、「過度の一般化による学習の陳腐化」が挙げられます。筆者が参観した歴史授業に、18世紀のイギリスとフランスを比較して、「なぜイギリスでは、フランス以上に重税が課されていたにも関わらず、国内に大きな対立が生じなかったのか」という問いを軸に、「税に対する同意の有無」を結論として導き出し、それを日本にあてはめて、「なぜ日本では税に対する抵抗感が強いか」という問いについて考える授業がありました。・・・その結果として、生徒たちが出した答えは、「税に対する意識が低い」といった常識的なものに留まっていました。・・・なぜ18世紀ヨーロッパを学ぶのかという問いに応えるために、歴史的背景の異なる国の「税に対する考え方」を過度に一般化した結果、学習が陳腐化してしまった事例だと言えます。(p.209)

 

 この「過度の一般化による学習の陳腐化」については、特に歴史教育において注意しなければならないことだと思います。個人的には、最後の日本の「問い」はオープンエンドにすべきだろうとは思いますが、無理やり意味づけることは、歴史の文脈を無視することにもつながりかねないのは、注意が必要だと思います。

 

 

 今回の指導要領では、自ら内容をうまく精選し、結びつけるカリキュラム・メーカーとしての教師の役割が強く求められています。そうした視点で考える時、今回のような社会科の多様な授業形態を理解し、それぞれの意義と課題を理解した上で、教材を作り、問いを構成し、生徒に学ばせていくことが重要であると考えます。その一助になる本だと感じました。

*1:詳細は、森分孝治『現代社会科授業理論』を参照。個人的には、今回の学習指導要領に基づく授業を考える上で、非常に示唆的な内容が多く含まれているので、ぜひ読んでほしい一冊である