青い森のねぷたいブログ

青い森です。東京の某所で教職についています。教職に関することを主につぶやいていきます。

「見通し」を持った社会科学習の重要性

 雑誌『社会科教育』10月号の特集が、「単元を貫く学習課題&授業プラン」。この号の特徴は、実際の「問い」や使用している「資料」が単元計画という形で、具体的に示されているところにある。これにより、先生方による追試可能な形態となっている。

 (恥ずかしながら、その号の高等学校・歴史の実践で掲載させていただいた)

 

 学習指導要領の改訂により、それまでは1時間あたりの発問や学習課題に焦点が当たりがちだったものが、1単元あたりで学習課題を設定し、それを1時間の授業でつなぎ合わせていく実践が少しずつ人口に膾炙するようになってきた。かくいう自分も、修士論文(2009年度)で、歴史解釈力を育てるためには1時間の授業では身に付かないので、単元、あるいは年間指導計画で、資質・能力を育成していくべきであると論じていた。

 

 そんな中、非常に興味深い本が、同じ明治図書から発売された。

 

 

 

 著者である内藤圭太氏は、学習指導要領改訂以前から、単元を貫く「発問」を意識して授業作成にあたり、2015年には、『単元を貫く「発問」でつくる中学校社会科授業モデル30』という本を出版している。

 それから5年経ち、学習指導要領の改訂と、内藤氏自身がさらに重ねてきた実践を踏まえ、この本では中学校の3学年、三分野すべてを貫く「発問」を構成したのがこの本となっている。

 それまで3年間(あるいは各分野別の)学習内容に特化した本は数多く出版されているが、3年間の「発問」を意識し、それを体系的に示した本は、この本が初めてではないだろうか。氏は、この本を執筆する理由を以下のように述べている。

 

① 中学校社会科三分野の3年間の指導計画、社会に開かれた教育課程、カリキュラム・マネジメント等を含む教育課程編成に役立つものとすること。

② 「指導と評価の一体化」のための計画例を示し、生徒に観点別学習状況の評価を行い、生徒の学習改善や教師の授業改善につながるものとすること。

③ 新学習指導要領の主旨に基づく実践事例集とし、教育実習生や初任者から教員経験年数の長い方々にとっても明日使える授業のアイディアを提供するものとすること。

 

 では、内藤氏が単元を貫く「発問」の要件をどのように考えているのか。氏の主張は2015年の著作でもなされているが、今回、それを再構成したものが以下の5点である。

 

① 1単元を通して課題解決をすることができるものであること。

② 学問的な学びにつながり(科学的な社会認識形成)、主権者育成(市民的資質の育成)に寄与するものである「本質的な問い」であること。

③ 生徒が課題を把握しやすく、単元全体の学習に見通しをもたせ、課題を主体的に追究したいと思わせることができるものであること。

④ 各次を貫く中心発問(小単元の課題)あるいは、毎時間の授業の主発問(本時の課題)を導くものであること。

⑤ 単元を振り返る際に、まとめや評価を行うことができるものであること。

 

 内藤氏の単元を考え方は、一般的にいわれている単元の規模よりも大きいものとなっていることがポイントである。通常単元といった時には、歴史でいえば「鎌倉時代」や「室町時代」、地理でいえば「九州地方」や「北アメリカ州」などといった規模で学習課題が考えられる。『社会科教育』10月号の「単元」もその範囲である。内藤氏の著作に依れば、その単元は「各次の小単元」に位置づけられている。

 では氏が単元として想定されているのはどの範囲か。具体的に言えばそれは学習指導要領の項目にあたる。すなわち、小単元が5~6時間程度だとすれば、内藤氏のいう単元は、20時間以上のものもある。これは歴史でいえば「古代」や「中世」の枠組みであり、地理でいえば「世界地理」「日本地理」の枠組みである。

 例えば、歴史的分野でいえば、すべての単元を貫く問いが「Aの時代は、どのようにしてBにつながったか」という問いで貫かれている。また、地理でいえば「日本の諸地域を学習する視点を考えよう」という地理的な「分析視点」の発見を問いにすえている。

 特に興味深いのは、公民的分野の経済単元で、問いは「私たちはどのように市場経済に関わるのがよい?」というものであるが、その具体的な事例をすべて「コンビニの経営を通して考えてみよう」と設定し、コンビニを通した消費活動、金融活動(価格の設定、景気変動、資金調達など)、労働者の権利を考察させている。

 こうした「見通し」を立てることにより、後は生徒の実態や学習時数に合わせてうまく調整することで、中学社会で起こりがちな、歴史ばかりやって公民がほとんど進まない、という課題を解消することができる。特に今回の学習指導要領では、小中高一貫の学習が想定されている。高等学校の歴史総合で想定されているものは、中学の歴史的分野の「知識」と、公民的分野の「見方」である。これが欠落している状態で歴史総合を行うことは不可避なのである。

 

 

 また、こうした「見通し」を生徒に提示することは、生徒の学習内容の理解にもつながる。オチのない学習は生徒にとってつらい。そういう意味でも、効果的である。

 さらに、授業展開例や評価方法の例なども提示されているので、教師がアレンジしたり、追試したりしやすいものとなっている。

 

 こうした特徴を持っている本書であるが、個人的にはいくつか注意しなければならないことがある。

 一つ目は、こうした「発問」は、内藤氏が「何のために社会科を教えるのか」をしっかり目標付け(aim-talk)をした上で作られているということにある。しかし、エイムトークの議論を抜きに語られてしまい、「手法主義」や「コンテンツフリー」であるという批判にさらされないか、が心配である。そのため、教師の側は、氏の問いが「どんな意図で」発問されているのかをしっかり読み解いて、授業を構成すべきだと考える。

 二つ目は、「発問」の背後にあるコンテンツは、思っているより深いということである。それは、氏の授業例を見るとよく感じられる。特に、このプリントにある「問い」に教える側がきちんと答えられるか、その上で、授業をどう構成していくのか、をシュミレーションできるかを考えて読んでほしいと思う。

 三つ目は、実践された授業(enacted curriculum)であるという点である。そのため、主権者育成や科学的認識については、学習指導要領の制約を受けている。とはいえ、その制約の中で、社会科の目標をしっかりと踏まえて構成されていると思う。ぜひ実際に受けた生徒が、「社会科をどんな教科と位置付けたのか」を聞いてみたいところである。

 

 

 今年度より実施されている中学校社会の学習指導要領をふまえ、自らの実践(発問)を惜しげもなく紹介してくれているので、中学校の現場で教えている先生の参考になるのではないだろうか。