青い森のねぷたいブログ

青い森です。東京の某所で教職についています。教職に関することを主につぶやいていきます。

読書記(本当の貧困の話をしよう)

 

本当の貧困の話をしよう 未来を変える方程式

本当の貧困の話をしよう 未来を変える方程式

 

 

   朝日新聞の書評を見て買いました。

 授業の教材となりそうな実例、視点、考え方が載っています。

 ノンフィクションライターで、様々な現場を見てきた著者だからこそ語れる視点。ここで語られることは、「なぜ貧困が起きているのかという背景」と「それを解決するにはどうしたらよいか」という実例。とりわけ、貧困は誰にでも起こりうることであること、貧困には必ず原因があること、それは個人のレベルではどうすることもできないこと、が事例を交えてよく分かります。

 

 個人的に「なるほど」と思った部分を二点あげます。

 かつて児童労働の取り締まりの現場に立ち会ったことがある。あるNPOが警察とともに工場に踏み込んで、働いている子供たちを保護した。

 でも、子供たちは幸せになったわけではなかった。彼らは家族を思って自発的に働いていたのに、それを禁じられたことによって、一家の生活が成り立たなくなってしまった。父親は家族と離れて出稼ぎに行かなければならなくなり、母親だけが家に残った。

 子供たちは児童養護施設に送られたけど、親から離れたくないという思いから施設を逃げ出して家に戻ってきた。しかし、工場は閉鎖されてしまっていて、他の会社も子供は雇ってくれない。

 彼らはやむをえず、マフィアのようなグループの下で、違法DVDを販売する仕事を始めた。つまり、児童労働を禁じられたことで、一家はバラバラになって、子供はよりリスクの高い状況に追いやられたことになる。

 

 児童労働がいけないという意見はまったく正しい。法律で禁止して、子供を救出することだって間違ってはいない。しかし、(中略)時には善意の押しつけとなって逆に当事者を苦しめることになりかねない。

 

 貧困の問題からくる途上国支援はとかく授業で扱うと、「支援する」ことが目的化されがちであるが、それによって当事者たちが逆に苦しむことがあることを示す例である。

 

 二つ目が学校はなぜあるのか、という部分に載っている。アインシュタインの言葉である。

「教育とは、学校で習ったすべてのことを忘れてしまった後に、自分の中に残るものをいう。そして、その力を社会が直面する諸問題の解決に役立たせるべく、自ら考え行動できる人間をつくること、それが教育の目的といえよう」

 その上で筆者は

 教育の目的とは、学力を身につけることだけにあるのではない。そこで得たものにより、自発的に自分や社会の問題を解決していく力を手に入れることだ。

 人々の無関心は核ミサイルと同じくらいの暴力だ。しかし、君が学校で身につける教養は、それを打破して社会をより良いものにしていくことのできる最良の武器なんだ

 とまとめます。

 

 売春の歴史など、性的被害の実例も書かれているので、中学生に読ませるのはちょっと微妙・・・。しかし、高校生ならこの本を読んで、「社会的背景をふまえた貧困問題」を考えることは絶対に大事だと思う。

 実際に、貧困から抜け出した人たちの実例(安室奈美恵千代大海など)も載っているので、本当に教材としておすすめします。