「社会科とは？」①〜世界史と地図〜
昨日から読売新聞の教育ルネサンスが「『社会科』を問う」になりました。これは将来社会科で飯を食っていく人間としては見逃せない問題。というわけでこのルネサンスが続いている間は読売新聞の記事を全文掲載し、その上で自分の考えを述べていきたいと思います。学術的なものではありません。あくまでも自分の会話のようなもんだと思ってお付き合い下さい。
というわけで、例によって社会科に興味のある方のみお読み下さい。
地図もあやふや 世界史授業に難問
基礎知識不足が、進学校の「世界史」の授業にも影響している。
欧州の白地図が描かれたプリントに、３年生が国名を書き込んでいく。岩手県奥州市の県立水沢高校で９月１２日に行われた佐々木和哉教諭（４８）の世界史の授業。冒頭は小テストだった。
ドイツの場所にオーストリア、ポーランドの場所にドイツと書いた男子生徒（１７）がいた。将来の就職先として旅行会社を希望、世界史が重要とは感じているが、「ヨーロッパを身近に感じないので、地名を覚えるのが苦手」と打ち明ける。
この日の授業のテーマは１９世紀前半の「ウィーン体制」。ナポレオンが没落した後の、欧州の秩序再建を理解するには、国の位置を知っていることが前提だ。佐々木教諭は、教壇の横の地図に赤や黄色のマグネットをはり、国の位置を指し示しながら授業を進めた。
佐々木教諭が「生徒たちは国の位置について、あやふやな知識しか持っていない」と感じて、小テストを始めたのは８年前、前任の盛岡三高時代からだ。当時の２年生は、イギリス、フランスこそ、９０％以上が正答したが、ドイツは６６・７％。ポーランドは１６・７％、ハンガリーは５・６％にすぎなかった。
水沢高で、２年生に欧州１０か国の位置を問うたテストでは、５年前は平均６・９か国が正解だったが、昨年は５・８か国に下がった。来春、世界史で大学を受験する３年生約５０人にアンケートしてみると、「基本的な地名の位置がよく分からない」と答えた生徒が半分近くいた。
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水沢高は、岩手県内では５本の指に入る進学校だ。今年、１６３人が国公立大学に合格している。
昨年、全国の高校で発覚した必修逃れ問題では、水沢高も例外ではなかった。「地理歴史」の中で、必修の世界史Ｂ（４単位）と、日本史か地理を選択で履修することになっていたが、２年生の後期からは１科目だけを受ける時間割にしていたため、世界史の授業時間が不足した。
大手予備校がない地方では、「受験までの生徒の面倒は全部、学校が見る」という考え方がある。「一つの科目をしっかり教えるには、他を切り捨てるしかなかった」というのが教員たちの本音だ。
現在は規定通りの時間割だが、「この時期にウィーン体制を教えるのは遅いペース。４単位でも時間が足りない」（佐々木教諭）。基礎を固めながら発展的な学習も進める、そんな難題に取り組まざるを得ないのが進学校の現実だ。
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高校生の基礎知識不足の元は、小学校時代にあるのだろうか。
学習用地図の販売で知られる教科書会社の帝国書院（東京都千代田区）が、社員を小学校に派遣し始めて６年目になる。きっかけは、全国の学校を回る営業マンが、地図帳が活用されずに放置されている実態を痛感したことだった。
出前授業の対象は本格的に地図帳を使い始める４年生。当初は２人からスタートしたが、現在では広報室員や営業部員ら約１５人が担当する。派遣先は５年間で延べ約６００校にもなる。
「地図の先生」は、索引の使い方や地図記号、凡例の見方をわかりやすく説明。児童が実際に調べることを主眼に置く。毎年招待している京都府宇治市立平盛小学校の糸井登教諭（４８）は「参加した先生方からは『目からウロコが落ちた』と好評です」と話す。
同社は、出前授業を一過性のものにしないための作業シートの作成や、中学生向け授業の研究にも取り組み始めた。
「地図の先生」の人気ぶりは、裏返せば「地図帳をどう使って指導すればよいか分からない」という教師が増えていることになる。そう考えると問題の根は深い。（大垣裕、宮本清史）
◆中学校では日本史中心
高校の社会科は１９９４年から、地理歴史（日本史、世界史、地理の３科目）と、公民（現代社会、倫理、政治・経済の３科目）の２教科に分割され、世界史が必修になった。日本史と地理は、いずれかを選択で必修することになっている。社会科は戦後生まれの教科で、教科の分割は社会科解体という見方もされた。
世界史必修化の理由には、国際化が進む中で、小中学校で本格的な学習が行われておらず、高校でも履修率が低いことが挙げられた。中学校では社会科の歴史的分野の学習は日本史が中心。学習指導要領で「世界の歴史については、我が国の歴史を理解する際の背景として我が国の歴史と直接かかわる事柄を取り扱うにとどめる」とある。
しかし、昨秋には、世界史を中心に、卒業に必要な必修科目の履修逃れが全国の高校で問題化。出題範囲が広く、暗記項目が多い世界史は、大学受験で敬遠されていることが、改めて浮き彫りになった。
今年度中の策定を目指している新指導要領でも、文部科学省は、中央教育審議会に対し、高校での世界史必修を続ける案を示している。ただ、審議会の高校社会部会の委員からは「現状の世界史を授業時間内に終えるのは困難」「世界史と日本史、地理を一体化させた総合科目を作るべきだ」といった意見も出ている。
(2007年10月16日 読売新聞)
新聞って本当にいろんな情報が含まれています。なんでちょっといくつかのトピックに分けて説明を。
まずは、「地方の進学校と世界史未履修」の問題。これは昨年の世界史未履修の時にしこたま書いたので敢えて繰り返しはしませんが、知識を保障しながらも社会認識形成（市民的or公民的資質）の育成など、あくまで中央の役所のものの見方でしかありません。そりゃ優秀な先生なら両方できるでしょうが、自分みたいな人間はとてもじゃないけどどっちかがおろそかになります。で、地方の先生方はどっちを取るか？
答えは言わずもがな受験対応の社会科です。最近知り合いのmixiのレスを見て感じたことなのですが、うちの高校なんて未だに進学校・進学実績を最大の売りにしようと思って躍起になってる。自分が実習行ったときにやったスピーチを某数学の先生が苦言を呈したっていうのはまさにその発想だと思います。某政治経済の先生も赴任当初こそとっておしもない授業でしたが、今やしっかり進学指導ですからね。まあでも、政治経済の先生は改めて実習で授業を受けると、結構テンポと発問のうまい先生なんだなあ、と思って感心して見てたけどね。（まあ、それでも母校の生徒は忙しいながらにも人間的な温かさと純粋さを持っていたから、自分の気持ち悪いぐらい学問的・知識的な日本史の授業についてきてくれた。その辺はうちの母校のやりやすさ・すばらしさを感じたけどね）
まとめると、今のカリキュラムは中央と地方の格差を生む大いなる問題を秘めているってことで結論づけておきます。
次に「地図」の問題。採用試験のために世界史や地理の勉強をして分かったこと、それは世界の地図上の位置関係が全く分からないってこと。自分は正直言うと、「世界」っていうのには若干の嫌悪感と苦手意識を持っています。世界史で羅列されるカタカナは大嫌いです。だから短期間で世界史や地理を詰め込もうと思っても全くダメでした。それは用語が暗記できない他に、位置関係が全く分からないことが挙げられると思います。例えばビザンツ帝国とか、フランク王国とか言われても、用語は知っていてもいつの時代か、とか今のどの辺りか、なんて詳しくは分かりません。
となると、自分もある意味地図の学習をしてきていないことになります。確かに世界地図や日本地図は社会科の先生ですからそれなりには書けます。でも、「地図で何かをする」という地図学習はあまりした記憶がありません。
しかも地図は「社会科」、特に「地理歴史」の基本だと自分は思います。しかも地図の学習は中学校1年生の1学期にちょっとやる程度。それ以降はそれが分かっていることを前提として進んでいく上、有名な形の国とかを挙げて、それで終わってしまいます。それじゃあ、改めて世界を見ても全く知らないわけでして。幸い次期学習指導要領からは中学の地理に再び全地域の地誌学習が復活します。これを機に国名とその位置関係を暗記させる工夫も必要なのかもしれません。それが世界史の理解にもつながるし、世界をみることにもつながるのではないかと思います。せめてヨーロッパの国は全部覚えさせるぐらいの気概が中学地理には必要かもしれません。
まあ、地図については次のルネサンスでも取りあげられているのでそこでもう少し書きます。
最後に究極的な問題になるけど、「高等学校の地歴公民は現行のままでいいの？」っていう問題。これは何となくこのルネサンスの核となりそうな気がするので小出しにしてこうと思いますが、自分の考えとしては「社会科に一元化する」か「地歴の必修を取っ払う」か「センター試験を現行の制度に合わせる」かのどれかが今の未履修問題始め「社会科」迷走の解決につながるものだと考えています。そうでもしないと、うちの某先生みたいに「政府にも対抗できるような市民育成こそ社会科にあり。だから公民だけやっとりゃーええんですよ、地歴なんていらんじゃろ」的な論が罷り通ってしまうわけで。だから少しでもこのルネサンスを通じて「地歴不要論」に対する反駁を自分なりに考えていきたいと思います。
長々とありがとうございます。これが2週間ぐらい続きますのでご了承下さい。
